ぽてとの日記

すべてがフィクションに。

家族のこと

家族の呪縛から離れられない。

オトナになればなるほど思う。

 

小さい頃から親が嫌いだった。

感情的でヒステリックに叫ぶ母親のことも、見栄っ張りで自分の金と地位が好きな学歴主義の父親のこともずっと冷めた目でみてきた。

 

姉は昔から母親と折り合いが悪くて、いつも怒鳴り合いの喧嘩をしていた。お互いが泣き喚いて責め合うのはいつものことだったし、わたしの高校受験の前日はリビングで皿が飛んでいた。

 

わたしが夢中になるものは、勉強の邪魔になるからと、なんでも取り上げられた。パソコンもテレビも禁止になって、大量の本をものすごい勢いで読むようになったわたしに母は言った。

「本読むの禁止ね」

お小遣いもなく、図書カードも捨てられたわたしは家に帰りたい気もしなくて図書館にこもって本をひたすら読んでいた。もう、借りることも出来ない本。そう思うと愛しくなるほど、本が好きだった。

 

そんな実家で10年以上暮らしていたから、家族の温かさは、自分のなかのどこをいくら探しても見当たらない。

 

空気を読んで自分の安全な立ち位置をはかることとそれを相手に悟られないように空気を読めないふりをして能天気な顔をするのが得意になった。

 

大学生になって、実家を離れて一人暮らしを始めた頃、大学の教授が言った。

 

「親に感謝しなさい、実家には帰りなさい、代わりのない家族なんだから」

 

ぼんやりとした言葉にならない、違和感を抱えたまま、家族には感謝をするものなんだと思った。みんな家族が好きなことが当たり前なんだと思った。

 

家族が嫌い。

それは口に出してはならない、呪いみたいだった。

 

あなたが家族が好きなら、そんな家族に生まれた幸せを大事にしてくれ。それでいいから、それだけでいいから、相手の事情を知らないまま他人にそれを押し付けないでくれ。

 

家族がどんなに好きになれなくても、振りほどいてもついてきて離れない。

 

それでも少しずつ、オトナになった。

小さかったあの頃よりずっと、わたしは誰にも邪魔されずにワタシだ。

 

久しぶりにできた彼氏は、いつも嬉しそうに自然に家族の話をたくさんするひとだった。このひとはきっと、幸せな家族を知っていて自分も新しい幸せな家族を始められるひとなんだ。そう思うと不思議とイヤな気持ちはしなくて、安心する気がした。自分のまだ知らない新しい家族が何処かにある気がした。

 

その感覚は、どこかで昔感じた感覚にとても近くて、それは昔何時間でもいた、図書館の愛おしい本みたいだった。